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最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)330号 判決 1963年6月07日

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人代理人河俣良介、同復代理人村部芳太郎の上告理由第一点について。

原審は、被上告人釧路主畜農業協同組合連合会が、阿寒主畜農業協同組合その他の傘下農業協同組合を組合員として、その経済状態を改善し、社会的地位を高めるのに寄与することを目的として設立された法人であり、その事業として農産物の生産指導及び農業経営の指導業務を行うものであつて、訴外和田博美は同連合会の使用人として右業務を担当するものであること、訴外和田が昭和二六年二月二六日同連合会の事務所内において、同連合会の用箋、記名印、印章等を冒用してほしいままに同連合会代表者二瓶栄吾作成名義の上告人宛の雑穀販売代金百万円の領収証(甲一号証)一通を偽造したこと、訴外和田が右領収証を偽造した動機は、当日上告人と阿寒主畜農業協同組合との間に雑穀の売買契約を締結しようとした際に、その衝に当つた同協同組合の理事吉田正治が組合印を持参していなかつたことから、上告人が右契約締結を拒否しようとするや、訴外和田としては当時右組合が肥料の購入資金の調達に窮していた状況を知つていたので、これを救済するため上告人から金員を騙取しようと企てたこと、そこで訴外和田は右領収証が真正に成立したように偽つて上告人に交付し、よつて上告人をして真実被上告人連合会が契約当事者になるものと誤信させ、もつて直ちに上告人から売買契約の手附金名下に上告人振出の額面金百万円の小切手一通を騙取して、上告人に同額の損害を与えたことを認定した上で、以上の事実関係のもとでは、訴外和田のなした右不法行為が被上告人連合会の事業の執行に属するものとは言い難く、他に同訴外人の右不法行為が被上告人連合会の事業の執行につきなされた事実を認めるべき証拠もないとして、民法七一五条に基づく上告人の本件予備的請求を棄却したのであるが、訴外和田の右不法行為が、被上告人連合会の原判示事業と関連を有し、外形上被上告人連合会の事業の執行の如く見られるかどうかの点を審理することなく、たやすく右事業の執行についてなされたものと認められない旨判示した点に原判決の審理不尽をいう余地なしとしない。この点を指摘するものと解せられる論旨は理由があり、原判決は破棄を免れず、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介)

裁判長裁判官池田克は退官につき署名押印することができない。

(裁判官 河村大助)

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